「80年代」ってどんな時代?
なんてことはない。
ただちょっとだけ太陽が輝いていて、「翔んだカップル」たちの談笑が街の雑踏に紛れて、ブラウン管の中の聖子ちゃんに憧れながら、地団太踏んで親に買わせたルービックキューブに苦戦していた――、
日常の中のある瞬間を切り抜いた断片でしかなく、唯一美化して言わんとするならば、偶然にもその時期に多感期を迎えることになったというだけに過ぎない。
海の向こうではイラン・イラク戦争などが勃発し、穏やかならぬ世界情勢の中で幕を開けた80年代であったが、僕の周囲では至って平和な時代であった。
夜中に一人、部屋を暗くして、耳にヘッドフォンを押し当てて聴いたDaryl Hall & John Oatesの「YOUR KISS IS ON MY LIST」に大人ぶって甘いため息漏らしたり、ツータックのチノパンの上にチェック地の赤いシャツをだらしなく着込んで、地元にある化粧品のチェーン店から流れる有線放送でかかっていた、Rick Astleyの「NEVER GONNA GIVE YOU UP」を耳にするなり、ちょっとかっこつけて歩いてしまったり――。
今になって、皆がこぞってとりたてて騒ぐ程、熱狂した時代でもなかった。極普通の平穏な日々であったに過ぎない。
他に何か特別なことなんてあったかしら――?
80年代がまさに幕を終えようとするとき、「バブル崩壊」という名の社会現象によって、人々の様々な思いは音もなく崩れ去り――。
こんな今となっては、もはやどうでもよくなってしまった。


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